おーい、小雛。
いい加減、開けてくれよ。
襖がミシミシ言ってるぞ。

隆が無理に押すから！
もう、ほっといてよ。
早退したって言っといて！

なぁ、体育館に戻れよ。
演奏会、楽しみなんだろ。
お前、張り切ってたじゃないか。

無理だよ。
あんな大勢の観客。
じーっと見てて威圧してて。

お前はいいよ。
得意なんだろ、笛。
俺なんか、楽器が苦手なのに。

じゃ、一緒にサボる？
大丈夫だよ。二人くらい居なくても。
他のみんながちゃんとやるから。

サボったら、他の連中が困るぞ。
なぁ、本当はどうなの。
演奏会、出たくないわけ？

そりゃあ、出たいけど。
でも、あんな大勢に見られるの怖いよ。
緊張で指が動かなかったらどうしよう。

練習通りやればいいよ。
まだ時間もある。
一回だけ通しで合わせてみよう。

ここで練習するの？
その程度で自信つくかなぁ。
はい、つっかえ棒はずした。

お前、そんなもんまでしてたのか。
どおりで動かなかったわけだ。
この部屋、ひな人形を飾ってるのか。

知らなかったの？
和室、先週から模様替えしてたよ。
ああ、男の子は見に来ないか。

だなー。
さて、練習するか。
…ひな人形あるから、よそ行くか。

え？
ひな人形があるとだめ？
私、大好きだけど。

いや、だって。
人目が怖いって言うから。
人形もだめなんじゃないの。

ひな人形は、子供の成長を見守るって。
お母さんに、そう教わった。
だから、私のお友だち。

友だちねぇ。
移動する時間もないし、いいか。
はい、いつでもどーぞ。

（この部屋は落ち着くなぁ）
うん。最後までできたね。
隆も間違えてなかったよ。

思ったんだけどさー。
観客も、平気なんじゃないの？
見守ってくれてるってことにして。

あぁ～なるほど！
見守ってくれてる、そうかも。
わざわざ足を運んでくれるんだもんね。

やっと笑った。
よし、さっさと移動するぞ。
俺らをみんなが待ってる。

隆  翔愛学園高等部1年生