たすく。そろそろ地上の家に住みたいね。

なにか問題でも？

雲の家は珍しくて面白いけど、学校の友だちが呼べない。

いつ呼んでくれても構わないよ。

普通の人間は飛べないのよ。私たちみたいに生まれつき飛べたらいいのにね。

地上に住むと家賃がかかるから、当分このままじゃないかな。

そっかぁ。雲の上に住める家があって良かったね。

誰がこんな家建てたんだろう？下から見たらただの雲だから不思議だよな。

いつか友だち連れて来たいな。きっとみんな喜ぶよー。

雲の端からうっかり落下しないように気をつけないと。

落下といえば、たすくも先週落ちてたね。

落ちてねえし。あれは店の前で待ちぼうけ食ってた女の子を見かけたからだよ。

ああ、雪が降りだして寒そうだったね。

俺が行ったら、彼氏と間違われたっけ。

自分に気づいてくれた人が待ち人だったんだよ。

そっか。チラシ配りの人も彼女の前を素通りしてたもんな。

たぶんね。みんなには彼女の姿が見えてないんだよ。

待ち合わせてた彼氏も、きっと来ない。

今でもあの子が待ってること、彼氏さん気づいてくれるかな。

どうかな。人間なんて、あっさりしてるんじゃない？

忘れられてたら悲しいね。

そーいやミチルが後から来て、チラシとかチケットを彼女に渡してたな。

チラシ配りの人、前を何度も通るくせに渡してあげないんだもん。見えなくっても、ひどいよ。

空からは色んな物が見えるな。俺らはたいしたことしてやれないけど、みんなが楽しければいいなとは思う。

そうだね。…あの女の子、またカフェの前にいるよ。

ふっ。俺が忘れられなくて現れたか。どれ、今日も相手してやるか。

待って、彼女テラス席の方見てるよ。

ん？冴えない男がぽつーんと座ってるな。

女の子、消えちゃった。なんでだろ。

さぁ？気が済んだから消えたんだろ。

あっ、わかった。あの人が霧斗さんなんだよ。

ほう？今頃来ても遅いっつーの。

でも、ちゃんと約束を守ってくれた。彼女を迎えに来たんだよ。

そっか。ずっと待ってるのも疲れるから、良かったな。

空からは色んな物が見えるね。一人でも多くの人が幸せでありますように。