読書:『おたく神経サナトリウム』 斎藤環

斎藤環先生は、おたく文化に造詣の深い精神科医です。『おたく神経サナトリウム』は、2001年~2014年まで「月刊ゲームラボ」に連載されていたコラムの中から、約半分程が抜粋されて単行本化されたとのこと。

ここ数年、電子化されていない本は滅多に買わない(買いたくない)のですが、前回紹介した『「宇宙戦艦ヤマト」を作った男 西崎義展の狂気』に続いて、紙の本を買ってしまいました。連載当時のゲームラボは読んでいないのですが、斎藤先生のファンなんです。

やあ。日本一「萌え」に詳しい精神科医だよ。

という、いかにもツッコミどころありな書き出しから始まる、軽妙な語り口ですが、内容はかなり濃いです。

トピックとしては、当時流行った、宮崎アニメや、エヴァの劇場版、日常系アニメブームに対する分析など、作品批評が多いですが、2008年の秋葉原通り魔事件や、児童ポルノ問題に関する主張などの時事コメントもあり、2000年代のオタク文化をまとめて振り返ることができます。

実は、秋葉原通り魔事件当時のオタクサブカル系批評家のコメント(原文を探したのですが見つかりませんでした。斎藤先生の発言ではない可能性もあります)の中で、事件直前まで掲示板への書き込みを繰り返していた加藤智大にとって「ネット上に居場所があれば事件は起きなかったかもしれない」という趣旨の意見があり、強く心を揺さぶられました。加藤に同情の余地はありませんが、被害者が出なかった可能性を考えると、ネット上の居場所の必要性を感じずにはいられませんでした。当時読んだ上記コメントは、私がキャラフレを作ろうとしたことの大いなるきっかけとなっており、忘れられない事件でもあります。

 

本書には、時系列的に様々なトピックが並んでいますが、敢えてテーマを見出すとしたら、「日本人総キャラ化」のようなことでしょうか。つまり、「キャラ」というものが、オタク作品の中に留まらず若者全体に広まっており、そうなってしまった社会でどう生きて行くべきかみたいなテーマが、端々で考察されているように感じます。

 

斎藤先生のキャラ考察に興味をもった人は、「戦闘美少女の精神分析」や「キャラクター精神分析」といった著書で、より詳しく語られています。併せてお薦めしておきます。

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